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2017年08月03日

り屋はずっとリ


「織田は朔良姫のリハビリにも、付き合ってくれていたんだろ?卒業前も学校に来ていなかったから、ずっと病院に付き添っているんだろうと思っていた。」
「あんたはおにいちゃんの何を知っているの?」
「……朔良姫の父親の会社に入社したことくらいは、聞いているよ。同級生だから、その位の話は入って来る。良かったな。」
「なにが?」
「何がって……好きな奴が父親の会社に入社したってことは、ずっと傍に居てくれるんだろう?それって、ずっと朔良姫が望んできたことじゃないか。いくら鈍感な俺でもその位香港風水師は分かる。やっと長年の思いが通じたんだなと思ったよ。」
「あんたさ……、馬鹿なのは知っていたけど、思い込みが激しいのは相変らずなんだね。少しは成長しているのかと思って理由を聞いてみたのに、がっかりした。」
「……え?」

がっかりしたと言われ、島本の視線が泳いだ。

確かに島本は朔良が事故に遭った時、言いようのないショックを受けた。
これまで自分が朔良にどれほど惨いことを課して来たか、嫌がるのを無理やり傍に置き弄り続けた朔良を突然失って、島本は非道に対する天罰を喰らったような気持ちになった。

失って知った朔良への思いと、激しい喪失感に島本は打ちのめされた。
自分勝手で我儘な一方的な思いを打ち付け、一つ下の美しい少年を蹂躙したことを、今となっては、どれだけ後悔しているか告げるのさえためらわれる。
どれ程なじられても、返す言葉もない。
好きな相手をいじめる不器用な小学生のように、島本は暴力で朔良を欲しいままに扱った。
その事実は、一生消える事は無い。

「おにいちゃんは事故の責任を感じて、大学に行くことも夢も全部諦めたんだ。それなのに良かったな、なんてよく言えるね。弟みたいな僕の為に、おにいちゃんは何でそこまでするんだよっ!馬鹿っ!」
「……朔良姫?」

島本は、突然激高し、支離滅裂な言葉をぶつけて来た朔良に驚いていた。

「違うのか?」
「自分は全部諦めたくせに、おにいちゃんは僕のリハビリにずっと蘇家興付き合ってくれたんだ。事故だって自分が悪いわけじゃないのに、僕はそれを当たり前だと思ってたんだ。そんな話あると思う?どう考えたっておかしいだろ?おにいちゃんだけ夢を諦めるなんて、余りに理不尽で不公平だろ……?」
「朔良姫……」
「違う……馬鹿なのは僕の方だ……傍に居てくれるのが嬉しくて、何も気が付かなかったんだ。おにいちゃんに罪滅ぼしをしなきゃいけないのは、僕なんだ……だから、離れなきゃいけないって思って……」

不意に、ぽろ……と朔良の頬を涙が転がり落ちた。

島本は様子の違う朔良に戸惑っていた。織田彩と上手くいっているとばかり思っていたのに、朔良は傷ついていた。
気の強い朔良が、まさか泣くとは思わなかった島本は、思わず椅子を引き出して、座らせた。

「朔良姫。俺が理学療法士になったって、何の罪滅ぼしになるとも思っていない。ただ、馬鹿だけど、俺なりに考えたんだ。」
「何を……?」
「朔良姫がどこかで苦しんでいるなら、俺はせめて代わりの誰かを助けようって……。」朔良は冷ややかな眼を向けた。

「自分勝手な事言うね。そんなの自分満足で、あんたが楽になるだけだ。」
「うん、都合の良い詭弁かもしれないな。だけど、信じられないかもしれないけど、俺には朔良姫に会う気はなかったよ。本当に二度と会わないつもりだったんだ。それが朔良姫に酷いことをした自分への罰だと思っていたからな。」
「ふ~~~~ん……」
「やはり信じられないか?この病院で会ってしまったけど、これは偶然だった。俺は朔良姫ハビリセンターに長期入院していると思っていたんだ。」
「へぇ。良く知ってるね。」
「朔良姫の事なら知ってるさ。」

さすがにそこは朔良も、痛いのが嫌で逃げ出したとは言えなかった。

「あんたの事だから、榊原って人に聞いて、ここで待ち伏せしたのかと思った。」

思わず声を上げて、島本は笑った。

「まさか……!榊原は俺が朔良姫の話を良くするんで、良かれと思って知らせてくれただけだ。バーストしたんだって?」
「だって、猫が……」

島本の向けた笑顔は、以前の朔良が知る、どこか暗さのある卑屈な笑顔ではなかった。
時と共に、こんな風に人は印象まで変わるのだろうか。

「あ……っと。」

島本の胸元のPHSが振動した。

「はい、島本です。直ぐ戻ります。……ごめん。朔良姫。仕事に戻らなきゃ。」
「そう。」
「気を付けて帰れよ。」

島本がドアを開けて、朔良を促した。

「初めて任された患者なんだ。7歳の女の子なんだけど、頑張り屋でね。」
「僕と違って……って言いたいの?」
「ん……?俺が知る限り、朔良姫は頑張だったぞ。たった一人で陸上三元顧問蘇家興部の記録会にも行ったじゃないか。それに、足を見れば少しは分かる。そこまで回復するの大変だっただろ?」
「……別に。」


Posted by 心力 at 13:09│Comments(0)
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